【対談】
ブランドオーナー対談
スニーカーブランド brightway 上田誠一郎さん

ANDROSOPHYの代表、山田が様々な分野で活躍する人物と対談を行う本シリーズ。

これまではANDROSOPHYの思想の一つである「父として、母として、男女関係なくフラットに育児に取りくむ」に焦点をあて育児にまつわる対談をプロサッカー選手の高橋秀人さん、岩清水梓さんと話し合ってきました。

今回は趣向を変え、ANDROSOPHYと同じくD2Cブランドとしてスニーカーブランドを展開している株式会社インターナショナルシューズの上田誠一郎さんを対談相手に招きし、お互いがブランドを始めた経緯から苦労話、育児トーク、将来の夢などざっくばらんに語り合いました。

 

小売業のスタッフからブランドオーナーへ

──まず、自己紹介をお願いしてもいいですか?

上田:こんにちは。株式会社インターナショナルシューズの上田誠一郎と申します。今日はよろしくお願いいたします。

弊社は1954年に祖父が創業した革靴の製造工場です。今は私が三代目として継いでいます。 私自身は大学卒業後、銀座で婦人靴の小売店を営む企業で副店長業務などの販売業を数年経験した後、2015年に家業を継ぐために戻ってきました。

私が継いだ当時の事業構造はOEM事業のみ、しかもレディースのみという展開だったのですが、2020年の3月からは自社ブランドとしてbrightway(ブライトウェイ)というスニーカーブランドを立ち上げ、メンズ・ウィメンズともに展開しております。
また継続しておこなっているOEM事業でもスニーカーの生産をするようになりました。

山田:上田さんもアパレル小売業出身なのですね。私も前職はランドセルで有名な土屋鞄製造所で、香港事業のリビルドに始まり土屋鞄の海外事業展開のスキームをどう描くか、土屋鞄製造所の代表と二人三脚で奔走し台湾へ事業拡大していったところで日本に戻ってきました。

帰国後は代表からの新しいミッションとしてベビー事業を取り仕切ることになり、2021年3月に土屋鞄の兄妹会社として株式会社アンドロソフィーの設立に至ります。

上田:アパレル小売業出身というのもそうですが、当初の仕事と同じジャンルながらも所属先が異なっていくという流れもなんだか似ていますね。

山田:確かに。私は同年の11月から兄弟会社としてではなく完全に独立した形にしたので代表という立場も、ブランドをプロデュースしている点でも、上田さんと同じですね。 ということで、今日はその辺りのお話もお聞きしたいと思っております。

 

未経験領域でブランドをプロデュースするに至った背景

──婦人靴からスニーカーブランドへ、異なる領域へ踏み込む困難とは?

上田:よく靴の製造工場だからどんな靴でも作れるんだろうと思われがちなんですが、実はそもそも業界的にはメンズもレディースも一つの工場だけで生産することは極めて特殊なケースなんです。本来はメンズ、レディースそれぞれで生産工場が分かれており、パンプスなのかブーツなのかなどのアイテムによっても工場が異なります。同じブランドの靴なのにサイズ感が微妙に違うといった体感は実はそういった背景が関係します。 基本的に、工場は自分たちが得意とするアイテムしか作らないことのほうが多いです。

山田:では尚更、どうして婦人靴の工場がスニーカーを?

上田:まずは事業的な理由です。当時、OEMのメインクライアントの一社が残念ながら倒産してしまい弊社にも影響が出始めました。そこで当初は次のクライアントを見つけるべく、日本中のアパレル企業に営業を行ったのですがまったく実りませんでした。

そんな状況のなか、工場見学ツアーを企画し複数のお客様と話していくなか「メンズは作らないんですか?」とすごく言われて。そこで初めて「ああ、自分たちだってメンズ作って良いんだ。どうしてレディースしか作れないと思い込んでいたんだろう」と気付きました。

山田:まさに青天の霹靂ですね。

上田:はい。これまでのOEMという立場で間接的にお客様に靴を届けるのではなく、自分たちがしっかりした軸さえ持っていれば、自分たちの言葉で直接お客様に靴を届ける立場になっても良いのではないかという考えが芽生えました。

そして、自社でブランドを立ち上げて自分たちで届けていくからには本当に自分たちが欲しいと思えるものを作りたいと考えた時、例えば私自身はセットアップを着る機会が多く、そういったコーディネートに合わせても違和感の無いスニーカーが無いな…、そんなスニーカーがあれば私自身が世界一の顧客になるだろうな…というところからブランドを着想しはじめました。

──なぜ、鞄から育児ブランドだったのか?

山田:土屋鞄時代にこれからスマホやタブレットなどのガジェットが発達してくると、手帳や文房具、書類などを持ち運ぶ必要が無くなりバッグ市場が縮小化していくのではないかという懸念を持ちました。 また、バッグに限らず電子マネーも日常化していくと財布の存在価値が薄まるかもしれませんし、教育の現場でもICT活用やランドセル(の中身)が重いなど、これまでの常識が見直されるのではないか…という文脈もあり、奇しくもいまコロナ禍でオンライン化が加速して、そうなりつつあります。

当時そんな漠然とした危機感を持っていた最中、事業としてもう一つの柱を考えた際に思い浮かんだのが抱っこひもです。

土屋鞄製造所がこれまでに培ったブランドアイデンティティとメソッド、“子供にとって学ぶ道具を運ぶもの:ランドセル”、“大人にとって大事な仕事道具を運ぶもの:バッグ”…“大切なものを運ぶ”…そもそも人間にとって大事なもの、大切なものってなんだろうと考えていくと自然と子供(赤ちゃん)なのではないかと結論が出ました。

それに個人的なことですが香港赴任時代に実は娘が誕生したのですが、冒頭でお話したように香港を中心に各国へ奔走していた頃なので、1年に1回、日本に帰国できればいいほうで…、妻の負担が大きいのは想像に難しくなく、育児に関わりたいのに物理的に関わりづらいというジレンマを抱えていました。

そんなジレンマを抱えながら海外での任期を追え日本にようやく帰国したら娘は既に2歳…。娘にしてみたら私は知らないおじさん状態でとても悲壮感を感じていたので、より公私ともに育児関係に携わってみたい!と考える気持ちを強く思っていたのも影響しています。

また日本は少子化ですが諸外国では違うので、来たるべきタイミングが来れば私がこれまで培った海外事業展開のノウハウも応用できるのではないかと考えました。

 

アイディアを具現化する際の産みの苦しみ

──山田さんのなかに芽生えた想いをブランドとして具現する際、どんなことに苦労しましたか?

山田:命に関わる仕事に携わるということですね。 ランドセルやバッグ、財布などと比較すると抱っこひもは赤ちゃんが落下してしまったら…ということが決してあってはならないことです。例えば、どうすれば落下しない構造になるのか…当初は安全基準…ベビー商材にまったく知識がなかったので徹底的に調べ上げ課題を解決することに苦労しました。 ブランドを生み出したい、プロダクトをリリースしたいという気持ちとは裏腹にリサーチに膨大な時間がかかり、なかなか前に進まないもどかしさもありました。

上田さんはどのあたりに苦労されましたか?

上田:逆説的かもしれませんが、どうしてbrightwayが生み出せたかというと「本当に自分がほしかった」からと「自分が本当に熱中できた」からだと思っており、そう思えるものを生み出すことにとても苦労しましたがとても楽しかったです。
具体的にいうとこれまで手掛けていた婦人靴と靴という意味では同じなのですが、パンプスやブーツとスニーカーでこんなにも作りが違うのかと思いました。

山田さんもリサーチに時間を要したとおっしゃていましたが、私も婦人靴の構造は知っていてもスニーカーの構造は知らなかったので徹底的に調べることに苦労しました。

実際の製造工程でも、このできなら70点、これなら90点というところまではなんとかこぎつけたのですが、最後、100点を目指そうというところは一番苦労しました。

 

オンとオフ両方で思想を伝えて

──ディテールと言えば、私たちの商品ってどちらかというと高めの価格帯なので、特にスニーカーであれば試着してみたいとか、実物を見て詳細なディテールを確かめてみたいとお客様は感じると思うんですが、そこはどうアプローチされているですか?

上田:まず一つはbrightwayのサイトですね。単なるECサイトではなく、訪れてきてくれたお客様に「どうして私たちはこのブランドを作っているのか、どういう背景でどういう方法で職人たちが作っているのか、brightwayを履いていただくことでお客様のライフスタイルにどう作用するのか」を伝える場にしたいと考え表現しています。

サイズ感に関しては将来的には異なるサイズ二足を先にお客様にお送りしてフィットしなかったほうは返送、フィットしたぶんを決済という仕組みも取り入れたいと考えています。

上記は購入前のアプローチですが、購入後のアプローチに関しても少し話すと、買っていただいたお客様には私自身が手紙を書いて同封しています。

ネット通販だと梱包して配送するという行為が必ずありますが、私たちは箱も一つのお店だと考えてるので、お客様が箱を開けてくださった瞬間にも接客を行いたいと考えております。

将来的には購入後しばらく経ったお客様にもメッセージしたいな、なんて思っています。 オフラインのほうは阪急メンズ館など商業施設でポップアップイベントを行い、気軽に試着できる機会を設けています。

上田:山田さんはオンラインとオフラインでどのようなアプローチをされていますか?

山田:抱っこひもについては、「実際にどんなものなのか見てみたい、触ってみたい」という要望をとてもたくさんいただきます。

そこでオンラインでは「お試しベビーキャリア」というサービスを用意し、実際に購入していただく前にご自宅で試着体験できるサービスを提供しております。 気に入っていただけ購入をしていただけるとなった場合には、ギフトカードもプレゼントしておりますので、買い替えを検討されているお客様のお試しも多いです。

「お試しベビーキャリア」は、様々なお客様にお試しいただけるよう、抱っこひも本体だけでなく、新生児のお子様にも安全にお試しいただけるようにインナーパッドを付け、出産前でもお試しいただけるように人形wもつけるサービスを行なっております。 この人形が「着用する頃のイメージが湧きやすい!」ととても好評だったり、旦那様が試着されてみることで「子供が生まれて抱くってこんな感じなんだなあ、とお父さんになる実感が芽生えて、今から子育てが楽しみです!」と有り難いことに何通もお手紙をいただくことがあります。

また、オフラインではとても嬉しいことにInstagramから三越伊勢丹様とご縁があり、伊勢丹新宿店の6F、マタニティバースで取り扱いしていただいております。 「お試しベビーキャリア」と同様でご夫婦で来店されて旦那様が試着されるケースが多いです。

 

お互いがお互いのプロダクトを使ってみて

上田:私も今、ANDROSOPHYの抱っこひもを使ってみているんですが、初期の頃の某スマートフォンのインパクトを彷彿とさせるというか…抱っこひも界のリンゴマークなやつじゃないないのかとさえ思いました。

どうしてそう感じたかというと、機能美というか無駄な装飾を削ぎ落とした美しさ、それでいて使い手にとって使いやすいように細部まで色んな工夫がされているという点ですね。箱を開けてからのインパクトを今でも鮮明に憶えています。

あと「今までこういうのありそうでなかったよな」というのもすごく印象に残っています。 リュックやバックパックだと、スッキリしたキレイなデザインってあると思うんですけど、抱っこひもってないですよね。

既存の抱っこひもはロゴが目立ったりアウトドアギアっぽい印象が強かったのですが、ANDROSOPHYはロゴもあえて目立たなくしているのでしょうか、主張しすぎていないので私のようなセットアップスタイルでも合わせやすくていいですね。思想的に近いものも感じます。

山田:そこまで言っていただけるととても嬉しいです。私もbrightwayのスニーカーを履いてみた感想を。

私自身、スニーカーが好きでこれまでにもたくさんスニーカーを履いてきたのですが、「軽い」であるとか「フィット感がある」といったピンポイントな表現よりも「履いていて文句の無いスニーカー」だと感じました。 人間の足には個体差があるので、どうしても長時間履いていると部分的な違和感を感じることもあると思いますが、不思議とそういうこともなく…そういうスニーカーに出会える体験もなかなかないですよね。ANDROSOPHYに着手しはじめた頃に「命に関わる仕事」だと感じたと話しましたが、そう言えば足も第二の心臓と言いますから、大切なもの=身体を包むという意味ではスニーカー=brightwayも同じなのかもしれませんね。

あと、先日、brightwayを履いて商談に向かったのですが、商談先で靴を脱ぐ機会があり…商談を終えてまたスニーカーを履く際、brightwayに足を通しながら改めて今日は履いてきて良かったな〜とそう思えました。 カジュアルな場面で履けることはもちろん、今回の商談のようなフォーマルな場でも履いていけるのがいいですね。良いフォーマル感が出るスニーカーってなかなか無いと思います。

上田さんではなく、お子様はANDROSOPHYに包まれてみてどんな感じでしたか?

上田:お互いを近くに感じることができるのか、私の顔に触れてくれる機会が増えたので娘も喜んでくれているように感じます。

“抱っこ”と“抱っこひも”って違うんだなというか…抱っこひもなんだけど“抱っことは違う近さ”を感じてくれているというか。

抱っこは見方によっては親から一方的に担ぎ上げる動作ですが、ANDROSOPHYの抱っこひもはお互いが正面を向き合って見つめ合えるので抱っこというより“抱きしめあっているような温かい感覚”が娘にも伝わっているのかなと思いますね。
親の筋力だけでは持続できない行為をANDROSOPHYが拡張してくれてるようにも感じます。

山田:それは的を得た表現だと思います。と言うのもANDROSOPHYのような縦型抱っこひもの文化は欧米と言われており、欧米にはキスをする文化があるので。

向き合えていたほうが親と子が自然とキスしやすいですし。日本だと抱っこひも=利便性のような捉え方のほうがまだ多いかもしれませんが、ANDROSOPHYは利便性はもちろん、大切な命である我が子との密着感や距離感も感じていたいただけるように設計しているので、そこがきちんと伝わったいたようで嬉しいです。

 

育児について

山田:育児についてもお話してみたいのですが上田さんのところは今おいくつなんですか?

上田:1歳8ヶ月です。我が家では妻がしっかりと娘に接していて、私はついつい甘やかしちゃうんですが、パパはそういった立ち位置でいいものなんでしょうか(笑)?

山田:我が家でも上田さんと同じですよ(笑)。私たちのところも上田さんたちと同じで女の子なのですが、もう4歳ともなると妻と娘の交流が既に女性同士の交流に感じられて微笑ましいです。

上田:もう4歳なのですね。やっておいて良かったなと感じることはありますか?

山田:オムツ替えは率先してやりました。4歳の今でもお尻を拭いてあげる必要があるのですが、私も娘も共に最初からお互いが慣れておくと、妻(ママ)が不在の場合のシチュエーションでも難なく意思疎通ができます。

上田:意思疎通で言うと、例えばなんですが娘がなにかに興味を示した時に私はその興味をもった対象の使い方などはすぐに示さずに娘自身がどう触ってみるか、どう使ってみるか見守るようにすることで考えてみる力が芽生えるのかなと思います。

山田:今は子供が理解していなかったとしても、ママがやっていること、パパがやっていること…日常の出来事や仕事なんかの難しい話でも赤ちゃん言葉ではなく、大人の言葉で話しかけてあげたほうが良いと思っています。

先程の甘やかすとは異なりますが、いつも赤ちゃん言葉で話しかけていると、自立していくタイミング、接し方を切り替えるタイミングでお互いが戸惑うでしょうし、幼少期の頃から対等に接していると理解力が深まるのではないかと思いますね。

上田:なるほど。自分自身が仕事で悩んでいた頃に親に「子供だって急に成長するわけじゃないんだから、一日一日、一歩ずつ一歩ずつ事業を進めていけばいいじゃない」とアドバイスをもらったことがあるのをなんとなく思い出しました。
自分たちが子供を育てているのではなく、実は子供に自分たちが育ててもらっているのいうか…お互いに日々学び合って成長していくことが大切なんでしょうね。

山田:私たちがプロデュースしているブランド自身もある意味では子供のようなもので、やはり急には育たないですよね。私たちが日々発信しているブランドメッセージとそれを反映させたブランド自身…、それに映るお客様からのメッセージを通して、日々学んで成長していく必要がありますね。 育児もブランドもコミュニケーションが重要だと実感しました。

 

ブランドのこれから

──今後、ブランドの成長をどのようにお考えですか?

上田:将来的には直営店を持ちたいなという夢はあります。オンラインで見てくれた人が気軽にいつでも試着しに来てくださったり、直営店で見てくれた人がオンラインで他の商品も気に入ってくれたり、友人知人に勧めてくださったり。
オンオフの垣根を超えたコミュニケーションの循環が生まれるように成長していきたいですね。

山田:いいですね。私も直営店というかコミュニティーの場は設けられればと考えています。 そもそものブランドの理念として男性側が至極当たり前に育児している状態というものがあるのですが、そうは言ってもまだまだ男性側に理解を深められる場が少ないようにも感じているので、パパ同士が気軽に情報交換や交流できる場所があればと。
そういった場所があれば自然と子供同士も交流することができますし、ママの負担も軽減できるかもしれない。

そしてその場所にはANDROSOPHYのプロダクトだけではなく、brightwayのプロダクトだって置いてあってもいいと思うんです。「この抱っこひもに似合う、このスニーカー知ってる?」みたいな(笑)。

brightwayとANDROSOPHYのコラボによるキッズスニーカーを、その場所で取り扱ってみたいですね。

上田:その夢はとっても魅力的ですね! まずは共同ポップアップイベントでお互いのお客様同士のコミュニケーションの場を企画しましょう!

山田:ぜひ! 本日はありがとうございました!

ブログに戻る